女体シェイクスピア 完熟リチャード三世
2月21日(土)ソワレ/ABCホール
2月23日(月)ソワレ(乱痴気公演)/ABCホール
登場人物20人を、7人の女優が演じるこの演劇。
ただでさえカタカナ名前に弱く、記憶力にも難ありの自分が、この芝居の流れを追えるとは到底思えない。
「あらすじのある物語の流れを追いながら理解し楽しむ」ことよりも、「ただただ目の前で繰り広げられる物語を観客として眺め楽しむ」ことに専念することにした。
そして、初回の観劇でおおよその流れを掴み、2回目でじっくり流れを理解しながら楽しむ。
こういった鑑賞の仕方が出来るのが、柿の醍醐味なんだよなあ。
「醜い容姿に生まれ心に歪んだ野心を持つ男が、周囲を憎み、呪い、騙し、崩壊させてゆく物語」という概要だけを頭に入れて、初回に挑む。
今回は、舞台上の大道具も小道具も、共に一切なし。
衣装は全員が黒いドレス。
正に「身体ひとつで演じる」タイプの演劇と言える。
案の定、誰と誰が兄弟で、誰が誰の母親で、などといった関係性の点には終始ついて行けなかったのが正直なところだが、くるくると変わる女優たちの役柄とその演じ分けを楽しんでいるうちに、「あれは●●の母親なんだな」「今はこういった展開で話が進んでいるのだな」といった事がうっすらと分かってくる。
それはまるで、うっすらと霧がかかり、ぼやけて見えていたものの輪郭が、視界が開けるにつれだんだんはっきりして形を捉えるような感覚。
第一回目の観劇でとても印象に残っているのが、七味まゆ味の演じるリチャードの母・侯爵夫人が、戦争へ赴く我が子・リチャードに投げかけた最後の言葉。
低い声で吐き捨てるように投げかけられた、たった二文字のこの言葉に、心底ゾッとした。
もうひとつ印象深かったのが、ラストの場面。
登場人物ひとりひとりが前に出てスポットライトを浴び、深く敬礼する。
最後にひとり取り残されたリチャードに、スポットライトは当たらない。
言いようのない悲しみを込めた表情を一瞬見せ、リチャードはくるりと踵を返し、憮然さを全身で表現しながら足早に舞台を去る。
狂気の果てに残された、たったひとつのものは悲しみだった。
リチャードを演じた安藤聖は、これをとても上手く表現していたと思う。
個人的には、本痴気は八坂沙織、乱痴気は葉丸あすかがMVP。
(敬称略)